222.内定取り消し

222.内定取り消し-人事・労務の豆知識 Podcast

今回は内定とは何か、内定取り消しはなぜだめなのかをお話ししました!

内定とは何か?

先週Twitterで内定取り消しをされたというツイートがあり、ご覧になった方もいらっしゃるのではないかと思います。
そちらについて見てみると、ツイートされた応募者さんは転職活動をされており、ある会社さんから内定が出ました。
その内定を承諾したところ、「内定を取り消すことをお知らせします。他の候補者の方がマッチする結果となりました。」というようなメッセージが会社さんから来たということだったみたいですね。
これはひどいということで話題になっておりましたが、このような場合にどうして内定を取り消しできないのかというお話をしたいと思います。

そもそも内定とは法的にどのような状態といえるのでしょうか。
私は過去に採用担当をしていた時期がありました。
会社の採用担当者さんにとって内定とは、採用したい方へ「ぜひ当社で働いてください」とオファーを出すことだという認識なのではないでしょうか。
内定を出すと、どのような関係が成立してそれを取り消すことが難しくなるのか。

内定した日の時点では、入社をしていないのでまだ働いていませんよね。
このような場合に、労働契約の効力はいつ発生するのか?という問題が出てきます。
この問題について、昔は内定を出した時点では労働契約は成立せずに入社時点で労働契約が成立する、内定とは労働契約の予約のようなものという認識だったようです。
のちに労働判例により、内定によって労働契約が成立するという考え方が主流となりました。
すなわち、応募者さんからの求人への応募は労働契約の申込となり、会社さんの内定通知は申込の承諾による労働契約の成立ということになります。
内定者の方への法的効力発生の時期や各法律の適用について個別具体的な判断は必要ですが、何か不足する要素がない限り内定により労働契約は成立しているということになるようです。
そのため内定を取り消すということはある意味、解雇と同じくらい気を使わなければならないともいえるのではないでしょうか。

会社さんからの内定取り消しについて

入社前の労働契約について、もう少し細かくお話ししてまいります。
こういった労働契約についての法的効力発生の時期は事例によって見解が分かれるところではありますが、今回は「就労始期付解約権留保付労働契約」と呼ばれるものについて見ていきます。
かっこ内の漢字を区切って意味を読み取ってみましょう。

就労始期付解約権留保付労働契約

就労始期付→労働契約の効力は内定日に発生していて、就労が始まる時期=入社日が決まっていること。≠効力始期付
解約権留保付→解約権という権利の趣旨や目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できるものに限って、契約の解約をする権利を保持していること。
労働契約→上記2つの意味を含んだ労働契約ということ。

簡単に申し上げると「内定日に労働契約の法的効力が成立しているけれども入社日が先にあり、それまでの間に場合によっては労働契約が解約されることもあり得る」ということです。

先ほど取り上げたTwitterの件に関しては、おそらくこの「解約権留保付」とはいえないのではないかと思います。
なぜなら大日本印刷事件 最大判昭54.7.20(裁判所HPリンク) という判例があり、この判例で「解約権留保付」について下記のように説明されているからです。

この申込みを承諾したものとしての採用内定通知は、誓約書の提出とあいまって、就労の始期を昭和44年に大学を卒業した直後とし、その間、誓約書に記載された五項目に該当する行為があれば採用内定を取消せる労働契約が成立したと解する。

「確かめよう労働条件」より引用―厚生労働省HP

要するにこの判例で示されている「解約権留保付」の権利行使ができる要件は、誓約書に書いてある五項目に当てはまった場合ということになります。
今回のTwitterでの内容を拝見すると、内定者さんにあらかじめこういった誓約書等で内定取り消し事由を示していたのか否かも疑問ですよね。

通常の内定通知書や誓約書等には、下記のような内定取り消し事由がいくつか書かれています。

・必要な資格の取得ができない場合
・学校を卒業できない場合
・心身の健康状態が就労に耐えられない場合 等

これらは入社しても実際に働くことができない状態ですよね。
先にも述べたように内定取り消し理由は、解約権という権利の趣旨や目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できるものに限られています。
内定取り消し項目の中に「他に良い候補者から応募があった場合」などは見たことがないですし、さすがに内定者の方がそのようなことを承諾するとは思えません。

このように内定取り消しができない可能性がある状態で訴訟などを起こされた場合には、いままでの判例からおそらく下記のような内容での損害賠償請求というお話になると思います。

・従業員としての地位確認
・誠実義務違反を理由に債務不履行責任
・期待権侵害による不法行為責任

・未払い賃金相当額の請求
・精神的苦痛の慰謝料 等

これらの損害賠償請求について、新卒採用と中途採用とではその事態の重さにより判断が異なってくることもあります。
このように会社さんからの内定取り消しというのは難しく、労働契約の解約であるため一方的な解約というのは解雇のような判断に近いのではないかと思います。

内定者さんからの内定辞退について

先ほどまでのお話とは逆に、内定者さんから内定辞退をされた場合はどうなるのか。
実際には内定辞退についてのご相談の方が多いですね。
内定者さんが入社誓約書を提出しながら入社日までに内定辞退の意思の表示をせず、他の会社さんへ就職してしまったなどの場合には損害賠償責任を問えるのではないか、というご意見もあるそうです。
ただし、内定辞退の意思の表示をした場合には、たとえ会社さんが誠心誠意ご本人などへ連絡を取り、内定者の方のために他の方を断っていたとしても、内定者の方へ損害賠償責任を問うのは難しいですね。
労使対等とはいえ、労働基準法は指揮命令権を持つ=立場として強い会社さんを縛る法律になります。
労働者の方が使用者よりも強い感じになってしまっている側面は否めませんが、あらためてフラットに考えてみると、労働契約は使用者側に指揮命令権があるので、どう考えても会社さんの方が立場が上になりますよね。
このように会社さんの立場が上で、従業員さんにひどいことをしないように労働基準法があるということになりますので、複雑な部分はありますがどうかご理解ください。

今週のPodcast
労働契約について漢字だらけの難しい言葉も出てきましたが、言葉を耳で聞くと内容のイメージもしやすくなるかと思います。
内定がもつ法的効力の重要性についてわかりやすく解説しておりますので、ぜひリンクよりお聞きください。

222.内定取り消し-人事・労務の豆知識 Podcast

今週はここまでになります。

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