その社会保険料、二重払いになっていませんか? ~日本・ポーランド社会保障協定署名から考える「社会保障協定」の基本~

2026年4月15日、日本政府はポーランドとの社会保障協定に署名しました。本協定は、両国からそれぞれ相手国に一時的に派遣される労働者などの年金制度の二重加入、保険料の二重払いなどを解消するもので、海外派遣や外国人雇用をしている企業にも関係する大きなニュースです。
今回は、このニュースをきっかけに、「日本から海外へ派遣している社員」と「海外から日本に来て働いている社員」の双方の視点から、年金などにかかる「社会保障協定」の基本的な仕組みと、人事・労務担当者が押さえておきたい実務ポイントを整理してご紹介します。
目次
1.はじめに
日本政府は2026年4月15日、ポーランドとの社会保障協定に署名しました。これは、日本・ポーランド両国からそれぞれ相手国に一時的に派遣される労働者などの年金制度の「二重加入」を解消するもので、派遣期間が5年以内の場合は、原則として派遣元国の年金制度にのみ加入することとなります。さらに、両国での保険期間を通算して、それぞれの国における年金受給権を得られるようになります。
社会保障協定の内容は相手国によって様々ですが、うまく適用すれば、保険料の二重払いを防止しつつ、年金を受け取るための加入期間を通算することができる可能性があります。本コラムでは、その基本と実務ポイントを整理します。
2.社会保障協定とは
社会保障協定とは、日本と相手国の社会保障制度(主に年金、国によっては医療保険なども含む)の取り扱いを二国間で調整するための取り決めです。次の2つの目的があります。
(1)保険料の二重負担を防ぐ(二重加入の防止)
海外で働く場合、原則として就労国の社会保障制度に加入することになりますが、派遣元国の制度にも継続加入していると、両国で保険料を負担することになります。協定では、原則として就労国の制度にのみ加入し、もう一方の国の制度への加入義務を免除する仕組みを設けています。
(2)年金加入期間を通算する(加入期間の通算)
年金を受給するためには、それぞれの国で定められた最低加入期間を満たす必要があります。日本の老齢基礎年金であれば受給資格期間が10年以上必要とされていますが、外国でも同じような要件が設けられている国があります。 一例としてアメリカの年金を挙げますが、おおまかにいうと10年以上の加入期間が必要とされています。そのため、短期の派遣だけでは受給につながらないケースがありました。このような問題について、社会保障協定によって両国の加入期間を合算(通算)することで受給要件を満たしやすくなります。
3.協定を結んでいる国
日本年金機構の公表によれば、2026年4月時点で日本は次の24か国と社会保障協定が発効済みです。
【発効済の国】
ドイツ、英国、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア、オーストリア
ただし、英国・韓国・中国・イタリアの4か国との協定は「保険料の二重負担防止」のみとなっています。 また、ポーランドについては、署名は行われましたが、具体的な発効時期は未定となっています。
4.適用を受けるための手続き(日本から海外に労働者派遣を行う場合)
一時的に海外に労働者派遣を行う労働者について社会保障協定の適用を受けるためには、主に次のような手続きが必要となります。
①適用証明書の交付申請
日本から海外に派遣する場合、事業主が日本年金機構(事務センター)に「適用証明書交付申請書」を提出します。交付された証明書を派遣先国の関係機関に提示することで、派遣先国の社会保障制度への加入が免除されます。
なお、「適用証明書交付申請書」は、就労の開始予定年月日または延長開始年月日のおおむね6カ月前から提出が可能です。
②適用証明書の交付
上記申請が認められた場合に、適用証明書が交付されます。
③適用証明書の提出
派遣された被保険者が派遣先国内の事業所に適用証明書を提出します。
申請は事業主が、提出は被保険者本人が行うところに注意が必要です。 なお、自営業者についても社会保障協定により同様の措置が講じられています。
日本年金機構 日本から協定を結んでいる国で働く場合の手続き はコチラ
5.適用を受けるための手続き(海外の労働者を日本が受け入れる場合)
一時的に協定相手国から派遣されて就労する労働者について社会保障協定の適用を受けるためには、主に次のような手続きが必要となります。
①適用証明書の交付申請
日本の事業主から協定相手国の実施機関に適用証明書の交付申請をします。
申請方法は協定相手国によって様々です。
②適用証明書の交付
上記申請が認められた場合に、協定相手国の実施機関から適用証明書が交付されます。
適用証明書は多くの場合、派遣される労働者本人に交付されます。
このため、申請は早めに行う必要があります。
③適用証明書の提出
派遣された労働者が適用証明書を日本の事業主に提出します。
日本の事業主は、年金事務所から適用証明書の提示を求められたときなどに適用証明書を提示するほか、日本の年金制度の適用が免除される旨の届出を行う必要があります。
日本年金機構 協定を結んでいる国から日本で働く場合の手続き はコチラ
6.実務面での留意点
実務面では主に以下の点について留意が必要です。
①手続きは任意
手続きは派遣先国または日本の社会保障制度への加入を免除されるために行うもので、協定の適用を受けるかどうかは、事業主・労働者の選択に委ねられており、手続きは任意となっています。必ず行わなければならないという性質のものではないため、実際に手続きを行うかどうか、労働者本人としっかりと話し合いをしておく必要があります。
②手続きは早めに
多くの場合、労働者本人が適用証明書を派遣先相手国に持参・提出することとなっています。そのため、実際に派遣先相手国に行くよりも前に適用証明書を用意しておく必要があります。
手続きは事業主が行うこととされていることが多いため、社会保障協定の適用を受ける場合は早めに行っておくとよいでしょう。
③国ごとに内容が異なる
社会保障協定は「すべての国で同じルール」ではありません。協定の対象となる制度(年金のみかどうか等)、必要書類、申請ルートなどは、国によって細かく異なります。また、協定相手国の適用証明書手続きにおいては外国語対応も必要となってくるでしょう。詳細をよく確認しておくことが大切です。
④給与計算
給与計算時に社会保障協定の適用について考慮に入れる必要があります。この点を考慮に入れないと、保険料を引くべきでない人から引いてしまうこと、また、引くべき人から引きそびれてしまったといった問題が起こる可能性があります。
⑤脱退一時金
日本では、保険料の掛け捨てを防止するため脱退一時金の制度が設けられています。海外から派遣されていた労働者が脱退一時金を請求すると、保険料の一部が戻ってくるという制度です。
なお、これはあくまで労働者本人の保険料掛け捨てを防止する制度であるため、労働者が脱退一時金を請求したとしても事業主負担分が戻ってくるということはありません。
7.まとめ
社会保障協定は「保険料の二重負担の防止」と「年金加入期間の通算」を目的とした、二国間の取り決めです。
近年、日本における外国人労働者は増加し続けていますが、これらの外国人労働者についても社会保障協定の適用を受けられる可能性があります。
また、グローバル化が進む中で海外派遣を行っている、考えている企業も多いことでしょう。海外に労働者を派遣する、海外から労働者を受け入れる企業にとって社会保障協定は欠かせない知識となります。
本コラムがそうした知識習得の一助となれば幸いです。 最後までお読みいただきありがとうございました。
杉並区荻窪・千葉県流山市を拠点に企業の成長を支える労務パートナーとして、貴社をサポート致します!


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執筆
髙山 暁
前職は速記士として活動。保険知識の不足を実感したことと、経営者・労働者が気を配りにくい部分を支えたいと思ったことから、社労士を志し、2021年社労士試験に合格。2024年にバラスト社会保険労務士法人へ入社し、社会保険手続きや日常的な労務対応を数多く担当。初めて顧問先のお手続きを完了した経験を糧に、誠実かつ穏やかな対応で信頼を得ている。



