220.労働基準法の話①
今週は労働基準法についてです。
労働基準法、どんなことが書いてあるのか見てみましょう。
労働基準法について
今週は労働基準法(労基法)のお話をしようかと思っております。
先日ご依頼いただいたセミナーが、労働法の解説するというものでした。
セミナーは全2回あって、第1回目は「労働契約とは何か?請負契約との違い」、第2回目は「法律の紹介」というもので労働基準法を上からご紹介していきました。
こちらは意外と受けが良くて、私も久しぶりに上から見てみると、なかなかよく考えられている法律なのだと思いながらお話しをしておりました。
お時間が許す限り、上からお話ししていきたいと思います。
労働基準法 第一章 総則
第一条 労働条件の原則
(労働条件の原則)
第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
② この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
条文引用:e-Govリンク
第一条で重要なのは、「人たるに値する生活を営む」というところが憲法から来ていることですね。
それと②「この基準を理由として労働条件を低下させてはならない」というところもポイントです。
②ですが、賃金について法律以上の計算などをしている会社さんは多いですよね。
わかりやすく言うと、交通費(通勤費用)は会社さん持ちであることが世の中で当たり前ではないですか。
交通費支給がこのように当たり前だから支払っているけれど、こちらは法律上の義務はなく支払わなくてもよいものです。
居住地は従業員さんの自由になるので、そのご本人のお家から会社さんへ来るまでの経費を払う筋合いはありません。
この労基法での義務がないことを前提に、「交通費を払わなくて良かったの?」と言って支給していた交通費を支払わなくするということは、労働条件低下になるのでだめということになります。
すなわち「労基法に交通費について書いてないということをいま知りました」と言ってもだめですよ、ということです。
こちらは割増賃金についても同様になります。
ある本に載っていたケースで、そこには所定休日について正しい2割5分以上での割増賃金の計算方法と、休日に出勤した場合は所定・法定問わず全部3割5分増以上にしているというのは間違いです、ということが書いてありました。
労基法においての休日割増の3割5分以上というのは、原則1週間に1日もお休みが取れなかった時にだけ必要です。
例えば土日休みで、土曜日は出勤、日曜日は休みましたという場合。
この休日出勤した土曜日というのは休日割増の3割5分以上の割増でなくてよいというようなことが書いてあったりしました。
本を読みながら違和感がありましたね、割増賃金の払い過ぎは確かにそうです。
だからといってここで正しい計算方法にして直してよい、と見られるのは労基法第一条としてどうなのだろうな、と思いながら読んでいた記憶があります。
第二条 労働条件の決定
(労働条件の決定)
第二条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
② 労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
条文引用:e-Govリンク
「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」というのを明確にしているというのが、第二条のポイントかと思います。
第三条 均等待遇 / 第四条 男女同一賃金の原則
(均等待遇)
第三条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
条文引用:e-Govリンク
(男女同一賃金の原則)
第四条 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。
条文引用:e-Govリンク
この2つは、労基法上あえて分けられています。
理由の違い
第三条(均等待遇)は「国籍、信条、社会的身分を理由として」
第四条(男女同一賃金の原則)は「女性であることを理由として」
禁止事項の違い
第三条(均等待遇)は「賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱」
第四条(男女同一賃金の原則)は「賃金について、男性と差別的取扱い」
これらを見ると不思議な感じがしますよね。
第三条の労働条件の均等待遇について、性別が理由として列挙されていません。
性別においての労働条件の差別禁止規定は1986年に施行した、男女雇用機会均等法に規定されています。
労基法上は女性について労働条件に差があってもよいというようにされていて、歴史を感じることがあったりします。
こちらは労基法の第六章の二の妊産婦等という項目などで、女性を保護する法規制の兼ね合いなどもありますね。
労基法において、男女は賃金についてだけ、差別的取り扱いをしてはならないことになっています。
第五条 強制労働の禁止
(強制労働の禁止)
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
条文引用:e-Govリンク
この条文をご紹介したときに、「パワハラがだめなのはこの条文ですか?」と聞かれましたが、それは違います。
パワハラは労働契約法第五条に労働者の安全への配慮として、使用者が安全配慮義務を負うとしています。
労基法第五条は労働者に対する奴隷的取り扱いのようなことを禁止しているものですね。
こちらはご本人の意思に反して、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束して無理やり、強制的に労働させることを禁止しています。
第六条 中間搾取の排除
(中間搾取の排除)
第六条 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
条文引用:e-Govリンク
労働者と使用者というのは1対1、対等な関係であるというのが前提です。
けれども中間搾取というのは、そこに第三者が入るということですよね。
その第三者の紹介で使用者が労働者を雇っていて、使用者は第三者にずっとお金を払い続ける。
そして第三者は、紹介した労働者がしっかり働くように見張るようなことなどをしてはだめですよ、ということです。
ただし、こちらには「法律に基いて許される場合」というものがあり、有料職業紹介事業などがこれにあたります。
あと労働者派遣は他人の就業に介入するものにはあたりませんので、こちらの第六条違反にはなりません。
派遣の場合は派遣法にかなり厳しく条件が定められていて、派遣元・派遣先が悪いことしないようにすごくしっかりと派遣法で規制されています。
そのため所定の手続きを踏まない違法な労働者派遣は、派遣法違反でアウトになります。
第七条 公民権行使の保障
(公民権行使の保障)
第七条 使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。
条文引用:e-Govリンク
こちらは例えば選挙へ行く時間が取れないなどの時に、労働者から「どうしても選挙へ行きたいです」と言われたら使用者はだめだと言ってはいけない、ということです。
ただし、権利行使などに妨げがない限り、使用者は請求時刻の変更ができます。
そのため、労働者から「朝一に選挙へ行きたいです」と言われた時には、使用者は「どうしても朝一はあなたがいてくれないと困るから、昼過ぎに行ってくださいね」などというふうに時刻を変えることはできるということになります。
ちなみにこの請求された時間について給与の有無は自由なので、有給ではなくてもよいです。
第八条は削除されておりますので、次は第九条になります。
第九条 労働者の定義
(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
条文引用:e-Govリンク
この労基法第九条に定義されている「労働者」という言い方は、他の法律でも出てきます。
そのため他の法律の「労働者」の定義が、この労基法第九条に定義されている「労働者」と同義とされていることもあります。
「使用される者」ではない法人等の代表者などは、労基法第九条の「労働者」ではありません。
あと最近は請負契約で働いているケースも多いですよね。
請負契約のウーバーイーツさんは、労基法第九条の「労働者」ではないけれど、労働組合法第三条の「労働者」として団体交渉ができると東京都労働委員会から判断されています。
Uber Japan事件命令書交付について(東京都HPリンク)
同じ「労働者」という言葉であっても、労基法第九条の「労働者」であったり、労働組合法のような別の定義の「労働者」もあるということになります。
「労働者」について(厚生労働省HPリンク)
第十条 使用者の定義
(定義)
第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
条文引用:e-Govリンク
使用者というのは「事業主」=社長さんだけを指すのではなくて、「事業の経営担当者」も指しますので管理監督者以上の方というのは、使用者になり得るわけですよね。
「その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」も使用者になります。
そのため「労働者に関する事項」の管理などをする方の場合には、使用者というくくりになるということです。
第十一条 賃金の定義
(定義)
第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
条文引用:e-Govリンク
「賃金」については、名称は何でもよく、使用者が労働者に労働の対償として支払うものすべてと定義しています。
第十二条 平均賃金の定義
(定義)
第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。(以下省略)
条文引用:e-Govリンク
「平均賃金」はもうこれだけで1時間ぐらい解説できてしまいますので、ひとつ重要なことをお話しします。
算定日以前3か月間で1日あたりいくら稼いでいるか、と考えると出勤日数で割る計算だと思ったりしますよね。
こちらについては出勤日数でなく総日数(歴日数)で割るので、思ったよりも低い金額になるというのが「平均賃金」のポイントかなと思います。
今週のPodcastでは
労働基準法の第一章についてわかりやすく解説しております。
第一章だけで楽しくお話しできちゃいましたね、第二章はまた次の機会にやろうかなと思います。
私はセミナーなども喜んで伺いますので、ご連絡頂けると幸いでございます。
今週はここまでになります。
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