出産・育児・復職に関する手続きと給付金の全体像③~育児休業中に必要な手続きと受けられる給付金~

第1回では「出産・育児・復職の流れ」、第2回では「育児休業前に企業が行うべき対応」を解説しました。今回は「育児休業中」に必要な手続きや受けられる給付金について、制度の概要から申請方法、注意点までをまとめます。
目次
1.産前産後休業中の社会保険料免除(厚生年金、健康保険)
対象者と免除期間
- 産前産後休業を取得した従業員は、本人・会社ともに健康保険料(40歳以上65歳未満の方は介護保険料を含む)・厚生年金保険料が免除されます。
- 免除期間:産休開始月から終了日の翌日の属する月の前月まで(終了日が月末の場合はその月まで免除)
- 年金額計算上は「保険料を納めた期間」として扱われます。
- 有給・無給を問わず、妊娠や出産を理由に働かなかった期間が対象です。
手続き
- 提出先:健康保険組合または協会けんぽ、事業所所在地の年金事務所
- 提出期限:産前産後休業中または終了後の終了日から1か月以内
- 出産前申請:産前休業開始後「産前産後休業取得者申出書」を提出
- 出産日変更時:予定日と異なった場合「産前産後休業取得者変更(終了)届」で修正
注意点
- 出産日が予定日より遅れた場合は、その遅れた日数分だけ産前休業期間が延長されます。
- 逆に早まった場合は、開始日が前倒しになります。このとき、前倒しされた期間が本当に「労務に服していない期間」であるかどうかを必ず確認してください。※有給休暇を取得していた日も、労務に服していない期間として扱われます。
2.育児休業中の社会保険料免除(厚生年金、健康保険)
対象者と免除期間
- 育児休業等を取得した場合、本人・会社ともに健康保険料(40歳以上65歳未満の方は介護保険料を含む)・厚生年金保険料が免除されます。
- 免除期間:育休開始月から終了日の翌日の属する月の前月まで。
- 開始月・終了月が同じ場合でも、その月に14日以上取得すれば免除対象(令和4年10月1日以降)となります。
- 年金額計算上は「保険料を納めた期間」として扱われます。
賞与の取扱い
- 令和4年10月1日以降開始分:賞与月の末日を含む1か月超の連続育休取得時のみ免除されます。
手続き
- 提出先:健康保険組合または協会けんぽ、年金事務所
- 提出期限:休業開始後または終了後の終了日から1か月以内
- 申請書類:「育児休業等取得者申出書」
- 変更があれば「育児休業等取得者変更(終了)届」(延長・短縮・途中復職など)
注意点
- 申請が遅れると、その間に本来免除されるはずの保険料を会社が一時的に負担する必要が生じるため、休業開始後速やかに手続きしましょう。
3.出産育児一時金(健康保険)
概要
- 健康保険の被保険者または被扶養者が出産した場合、原則50万円(産科医療補償制度未加入は48.8万円)支給されます。
- 多くの場合は医療機関が直接申請するため、会社の手続きは不要です。
手続き
- 提出先:健康保険組合または協会けんぽ
- 提出期限:出産日の翌日から2年以内
- 直接支払制度(一般的):医療機関が健康保険組合または協会けんぽに直接請求、本人は差額のみ支払います。
- 受取代理制度:直接支払制度がない医療機関の場合、本人の事前申請により健康保険組合または協会けんぽが医療機関に直接支払い、本人は差額のみ支払います。
- 本人請求:海外出産や制度未利用で本人が全額立替後に健康保険組合または協会けんぽに請求します。
注意点
- 退職日前日まで1年以上の被保険者期間があれば、資格喪失日から6か月以内の出産でも受給可。
- 被扶養者となった場合は、被保険者本人としての請求と被扶養者としての請求のいずれか一方を選択して申請(同一出産について重複不可)。
4.出産手当金(健康保険)
概要
- 被保険者が産前産後休業中に給与がない場合、標準報酬日額×2/3が支給されます。
対象期間
- 出産予定日以前42日(多胎は98日)から出産翌日以後56日まで勤務しなかった期間。
- 予定日より遅れた場合、その遅れた期間についても対象となります。
支給要件
- 健康保険の被保険者(扶養は対象外)
- 休業中に給与が支給されない、または出産手当金より少ない場合は差額が支給されます。
- 退職後の継続給付(次の両方満たす場合のみ)
- 退職日前日までに継続して1年以上の被保険者期間(任意継続は除く)
- 資格喪失時に受給中または受給条件を満たす※退職日に出勤した場合は不可
手続き
- 提出先:健康保険組合または協会けんぽ
- 提出期限:休業していた日ごとに、その翌日から2年以内。
- 「出産手当金支給申請書」を提出
- 本人記入欄・事業主証明欄・医師または助産師の証明欄が必要
- 産前・産後など複数回に分けて申請可※本人から分割希望がなければ、産前産後休業終了後にまとめて申請してください。
- 事業主証明欄は申請ごとに必要
- 医師証明欄は初回申請が出産後で出産日確認済みの場合、2回目以降省略可
5.育児休業給付金(雇用保険)
概要
- 雇用保険の被保険者が、1歳(条件により1歳6ヶ月・2歳)未満の子を養育するために育児休業を取得した場合に支給。
支給額
- 休業開始~180日:賃金日額×支給日数×67%
- 181日目以降:同×50%
- 社会保険料免除により手取りは最大約80%相当。
支給要件
- 育休開始日前2年間に賃金支払基礎日数11日以上の月が12か月以上
- 休業中の就業日数が月10日以下
- 賃金が80%未満であること
支給対象期間
- 原則:1歳前日まで
- 延長:保育所入所不可等で1歳6か月、さらに2歳まで(証明書類必須)
手続き
- 提出先:事業主経由でハローワーク
- 提出期限:支給対象期間末日の翌日から2か月以内(延長不可)
- 初回申請:育休開始日から起算した最初の支給対象期間(原則2か月間)終了日の翌日から2か月以内。初回申請を受給資格確認と同時に行う場合は、育児休業開始日から起算して4か月を経過する日の属する月の末日までに。
- 継続申請:以降2か月ごと
- 延長申請:入所申込書、延長事由認定申告書、入所不可通知を添付
6.出生時育児休業~パパ育休~(雇用保険)
概要
- 子の出生直後8週間以内に、最大4週間(28日)まで取得できる休業制度です。
- 取得は2回まで分割可能で、間に勤務日を挟んでも構いません。
支給内容
- 賃金日額 × 67%(28日以内)
- 支給要件は通常の育児休業給付金と同一の基準で判定されます。
取得可能期間
- 「子の出生日または出産予定日のうち早い日」から「子の出生日または出産予定日のうち遅い日から起算して8週間を経過する日の翌日」までの間
申請開始日
- 原則:子の出生日(出産予定日前に出生した場合は出産予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日から申請可能
- 例外:
- 取得日数が28日に達した場合 → 達した日の翌日から申請可
- 2回目の取得を終了した場合 → 終了日の翌日から申請可
申請期限
- 申請開始日から起算して2か月を経過する日の属する月の末日まで
- 同一の子について2回に分割取得した場合も、申請は1回にまとめて行います。
手続き
- 提出先:事業主経由でハローワーク
- 提出期限:申請開始日から起算して2か月を経過する日の属する月の末日までに
- 申請書類:育児休業給付金の申請様式を使用(パパ育休専用欄に記入)
補足
出生後休業支援給付金の制度の詳細については、以前のコラム「2025(令和7)年4月から「出生後休業支援給付金」が創設されます」で解説しています。
→(「2025(令和7)年4月から「出生後休業支援給付金」が創設されます」)
まとめと注意点
- 制度は申請期限が短いものもあるため、休業前から必要書類と期限を確認しておくことが大切です。
- 人事・労務担当者は、従業員に「いつ・何を・どう申請するか」を事前に案内しておくと、申請漏れやトラブルを防げます。


御社の悩み、
無料で相談してみませんか?
無料相談を予約する
執筆
合田 真梨菜
高崎経済大学地域政策研究科前期博士課程を修了。企業と労働者の双方の視点から働くことに関わる仕事を志す。日本語教師として外国人労働者・留学生の支援を行う中で、必要なのは言葉だけでないと痛感し、2021年にバラスト社会保険労務士法人(旧:恵社労士事務所)に入社。現在は、企業のパートナーとして、日常的な労務相談に加え、法改正等の情報発信を通じて、誠実かつ実直な姿勢でサポートしている。