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最低賃金が過去最高の上昇!? ~最低賃金のあらましと企業側に求められる対応について~

最低賃金のアイキャッチ画像

2025年の最低賃金は過去最高の上げ幅となり、各種報道でも注目されています。
本コラムでは、最低賃金とはどのようなものか、最低賃金の審議はどうなったのか、上がると注意すべき点はあるのかといったことについて分かりやすく解説します。

1.はじめに

2025年の最低賃金は過去最高の引き上げとなります。2025年9月5日の厚生労働省の発表によると、今回の改定により全国加重平均額で1,055円から1,121円へと66円上がり、1959年の制度開始以来最高の上昇幅となりました。

参考:厚生労働省の発表はこちら

最低賃金の引き上げは、労働者の生活に直結するだけでなく、企業の人件費や雇用管理にも大きな影響を与えます。そのため、今後の対応や注意点をしっかりと理解することが重要です。


2.最低賃金とは

最低賃金とは、法律により使用者が労働者に必ず支払わなければならない賃金の最低額のことです。原則として、事業場で働く全ての労働者とその使用者に適用されます。

最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」がありますが、両者が重複する場合は高い方が適用されます。

「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の概要は以下のとおりです。

地域別最低賃金

都道府県ごとに必ず設定されている最低賃金で、基本的には労働者の勤務地がある都道府県のものが適用されます。ただし、一時的に本来の勤務地である都道府県以外の場所で勤務する場合は本来の勤務地のものが適用されます。 また、テレワークの場合は自宅住所地ではなく所属する事業所都道府県のものが、派遣労働者の場合は派遣先都道府県のものが適用されます。

特定(産業別)最低賃金 特定の産業、業種に設定されている最低賃金で、地域別最低賃金よりも高い金額となっています。地域別最低賃金と異なり、必ず設定されているものではありません。

なお、最低賃金には減額の特例規定(最賃法第7条)があり、一定の範囲の労働者(試用期間中の者等)について都道府県労働局長の許可を受けた場合は最低賃金に満たない賃金額とすることができます。これはあくまで許可を受けた場合のみの特例であるため、基本的には全ての労働者に最低賃金が適用されると考えておきましょう。

一定の範囲の労働者は以下のとおりです。
 一.精神又は身体の障害により著しく労働能率の低い者
 二.試の使用期間中の者
 三.職業能力開発促進法に基づく認定職業訓練を受ける者のうち一定のもの
 四.イ 軽易な業務に従事する者
   ロ 断続的労働に従事する者

参考:厚生労働省HPはこちら ※記入要領PDFに詳細な説明があります


3.2025年10月以降適用される最低賃金額について

さきにも述べたとおり、2025年の最低賃金は全国加重平均額で1,055円から1,121円へと66円上がり、1959年の制度開始以来最高の上昇幅となりました。これは過去最高の上昇幅であり、歴史的な改定となります。

全国加重平均額とは

都道府県ごとの労働者数×地域別最低賃金で計算した全国の合計を、総労働者数で割った額です。
例えば、ある年の最低賃金が1,200円(適用対象者:5,000万人)と1,000円(適用対象者1,000万人)の2種類のみだった場合、金額だけで単純に平均を出すと1,100円になります。
全国加重平均額の式で計算すると、
1,200×5,000万+1,000×1,000万÷6,000万=約1,167円
となります。

各都道府県の審議結果は以下のとおりです。

 2025年最低賃金審議結果一覧※発効日順
都道府県最低賃金額引上額
※太字は目安より高い
引上目安額発効日
※太字は2026年発効
 改定後改定前
栃木10681004円64円63円2025/10/1
新潟1050985円65円63円2025/10/2
千葉11401076円64円63円2025/10/3
東京12261163円63円63円2025/10/3
長野1061998円63円63円2025/10/3
神奈川12251162円63円63円2025/10/4
北海道10751010円65円63円2025/10/4
宮城1038973円65円63円2025/10/4
兵庫11161052円64円63円2025/10/4
鳥取1030957円73円64円2025/10/4
滋賀10801017円63円63円2025/10/5
石川1054984円70円63円2025/10/8
福井1053984円69円63円2025/10/8
茨城10741005円69円63円2025/10/12
富山1062998円64円63円2025/10/12
大阪11771114円63円63円2025/10/16
山口1043979円64円63円2025/10/16
愛知11401077円63円63円2025/10/18
岐阜10651001円64円63円2025/10/18
香川1036970円66円63円2025/10/18
埼玉11411078円63円63円2025/11/1
静岡10971034円63円63円2025/11/1
和歌山1045980円65円63円2025/11/1
広島10851020円65円63円2025/11/1
鹿児島1026953円73円64円2025/11/1
奈良1051986円65円63円2025/11/16
福岡1057992円65円63円2025/11/16
宮崎1023952円71円64円2025/11/16
島根1033962円71円63円2025/11/17
三重10871023円64円63円2025/11/21
京都11221058円64円63円2025/11/21
青森1029953円76円64円2025/11/21
佐賀1030956円74円64円2025/11/21
山梨1052988円64円63円2025/12/1
岡山1047982円65円63円2025/12/1
愛媛1033956円77円63円2025/12/1
岩手1031952円79円64円2025/12/1
高知1023952円71円64円2025/12/1
長崎1031953円78円64円2025/12/1
沖縄1023952円71円64円2025/12/1
山形1032955円77円64円2025/12/23
福島1033955円78円63円2026/1/1
徳島1046980円66円63円2026/1/1
熊本1034952円82円64円2026/1/1
大分1035954円81円64円2026/1/1
群馬1063985円78円63円2026/3/1
秋田1031951円80円64円2026/3/31

今回の改定により、全ての都道府県で最低賃金が1,000円を超えました。
また、39もの地域で目安額よりも多い改定となり、熊本県の82円が最高の上昇となりました。 ちなみに、最低賃金の最高額は東京都の1,226円となっています。


4.最低賃金が上がった場合に気をつけるべき点

最低賃金が上がると、企業にはいくつかの影響が生じます。

・最低賃金を下回っていないかチェック
まず、現在の賃金額が最低賃金を下回っていないかをチェックする必要があります。チェックした結果、最低賃金を下回っていれば賃金を上げる必要も出てきます。
金額のチェックにつきましては「5.支給給与額が最低賃金以上かチェックする方法」で述べます。

・扶養、社会保険加入要否のチェック
賃金を引き上げたことにより、例えばパート・アルバイトの方が「年収の壁」を超えてしまい、扶養から外れたり、社会保険への加入が必要となるケースも増えることが予想されます。結果として、従業員への説明や社会保険関係の手続きが必要になることがあります。

・規程、給与計算システムのチェック
必要があれば就業規則や給与計算システムの見直しを行い、新しい最低賃金が適用される日(発効日)に合わせて確実に対応できる体制を整えておくことが望まれます。

・賃金を引き上げるタイミングのチェック
2025年は最低賃金の発効日にも注意が必要です。 例年であれば10月中(多くは10月1日)であることが多いですが、今年2025年は引上額のインパクトが大きいことから2026年3月31日までずれ込む地域があります。賃金を引き上げる場合、いつまでに引き上げなければならないのかをしっかりとチェックしましょう。


5.賃金が最低賃金以上かチェックする方法

最低賃金は「時間額」で定められており、月給制や日給制の場合でも1時間当たりの金額を算出し、最低賃金額以上かどうかを確認する必要があります。試用期間や研修期間中も基本的に適用されるため、注意が必要です。

月給制の場合は「月給÷1か月平均所定労働時間」で時間額を算出し、最低賃金と比較します。
日給制の場合も同様に、1日の所定労働時間で割って時間額を計算します。
基本的にはこのような考え方で計算していきます。

ここで注意すべき点は、通勤手当や家族手当、残業代(固定残業代も)など、一部の手当は最低賃金の計算に含めないことです。基本給や職務手当など、対象となる賃金だけで計算する必要があります。 なお、固定残業代は固定残業代単独で計算する必要があります。

最低賃金の計算に含めないもの
①臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
②1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
③所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
④所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
⑤午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)⑥精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

また、確定拠出年金制度(DC)を導入している企業で労働者が掛金を拠出する場合、その掛金の額を最低賃金の計算に含めることができないことに注意が必要です。
なお、掛金として拠出せず、毎月の給与に上乗せされている場合は最低賃金の計算に含めることができます。

参考:最低賃金額以上かどうかを確認する方法 厚労省HPはこちら


6.まとめ

2025年は過去最高の引き上げとなりました。政府は2020年代に全国平均で1,500円とする目標を掲げているため、来年は同等の水準以上で引き上げる必要が出てくるかもしれません。

しかし、特に中小企業にとっては大きな負担となる可能性があります。そのため、業務改善助成金などの活用や、生産性向上の取り組みが重要となります。賃金引き上げを要件とする助成金も複数種類あるため、検討してみてはいかがでしょうか。特に、業務改善助成金については2025年9月5日に対象事業所の拡充等が発表され、ホットなものとなっています。

参考:賃金引上げに活用できる助成金例 厚生労働省HPはこちら

最低賃金は「お金」に直結する大きな要素です。最低賃金に満たない賃金を設定している場合、多くのペナルティが課される可能性があるので、しっかりチェックするようにしましょう。
ただ、その計算には複雑な要素もあるので、専門家に任せるのも一つの手段になります。
当法人でもお力になれることがあるかもしれませんので、ぜひ、お気軽にお声がけいただければと思います。

最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

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髙山 暁

執筆

髙山 暁

前職は速記士として活動。保険知識の不足を実感したことと、経営者・労働者が気を配りにくい部分を支えたいと思ったことから、社労士を志し、2021年社労士試験に合格。2024年にバラスト社会保険労務士法人へ入社し、社会保険手続きや日常的な労務対応を数多く担当。初めて顧問先のお手続きを完了した経験を糧に、誠実かつ穏やかな対応で信頼を得ている。

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