232.裁量労働制の法改正1

232.裁量労働制の法改正1 -人事・労務の豆知識 Podcast

来年4月施行の法改正の内容をご紹介します。
今週は、専門業務型裁量労働制の適用業務の追加と、同意についてお話ししました。

専門業務型裁量労働制とは?

今週は2024年4月1日に施行される、裁量労働制の改正についてお話をしたいと思います。
裁量労働制は、専門業務型裁量労働制企画業務型裁量労働制があります。
その中の専門業務型裁量労働制の改正についてご説明いたします。
専門業務型裁量労働制とは簡単に申し上げますと、対象となっている業務を行う方についてその業務を行う時間分、労働したものとみなす制度です。
この対象業務は厚生労働省の省令や告示にて限定列挙で定められており、後述しますが来年の改正でひとつ増えることにもなっています。

そもそも「裁量労働制とはどのような制度か?」というところですが、一般的には「残業代を払わなくてよい」、言い方は悪いけれど「働かせたい放題」などと思われていたりもします。
社労士側の立場から言わせてもらいますと、それは結果の中のひとつであるけれども専門的に考えると少し間違えている説明ということになりますね。
これはなぜかといいますと、専門業務型裁量労働制などの各日の労働時間にとらわれずに労働時間を算定するみなし労働時間制が適用されていたとしても、労働時間数が法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える場合には36協定が必要で割増賃金(残業代)を払わなければならないからです。
みなし労働時間制については休憩や深夜業、休日に関する規定の適用もありますし、健康及び福祉を確保するための措置も必要であることから、「働かせたい放題」でもありません。

労働契約というものに立ち戻って考えてみましょう。
労働基準法上の労働契約とは、労働者が労働を使用者の指揮命令のもとに提供して、その労働の対価として賃金を得るということになっています。
ここでいう労働については仕事の成果よりも使用者の指揮命令下に置かれた時間というものが重要視されます。
簡単に言ってしまえば、従業員さんが会社さんのいうことを聞くという約束をしている時間ですよね。
そのため例えば定時が9時から18時(休憩時間1時間)の会社さんだったとして、入社後の初出社で9時に出勤した従業員さんがいたとします。
出社直後に「ちょっと待っていてください」と言われて、従業員さんが18時までずっと待っていた場合。
9時から18時までその従業員さんに声をかけ忘れてしまって、会社さんとしては「待っているばかりでなく、従業員さんから声をかけて仕事をしてほしい」と思うかもしれません。
しかし従業員さんからすれば、「ちょっと待っていてください」と指揮命令を受けて、何か言われたらすぐに動けるような準備をして待っているという労働をしていたわけです。
このように仕事の成果に対する報酬ではなくて、指揮命令下に置かれて時間を拘束されていることに対する労働の対価が賃金として支払われるのが、労働契約というものであり、労働時間の算定というものは、一般的に思われるよりも非常に重要なことになります。

専門業務型裁量労働制における労働時間管理の注意点について

先ほどは一般的な労働契約や労働時間についてお話ししましたが、これが専門業務型裁量労働制になるとどうなるのでしょうか。
前述と同じように定時が9時から18時(休憩時間1時間)で1日の所定労働時間が8時間の会社さんの場合。
専門業務型裁量労働制の対象業務に8時間従事させることを労使協定で定めていれば、1,000万円売り上げても全く何もしなくても、8時間労働したとみなされて賃金は変わりません。
対象となる業務の性質上、会社さんからの具体的な指示が難しいお仕事について、そのお仕事をする時間働いたとみなす
ことになります。
そのため対象業務に10時間従事させることを労使協定で定めていれば、2時間分は時間外割増として割増賃金が必要です。
この10時間と定めた対象業務を6時間で終わらせていたとしても、10時間労働したものとみなして、2時間分の割増賃金は発生します。
そしてこの労使協定は法定労働時間以下であっても、所轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません。

このように労使協定で定めた時間働いたものとみなして給与計算をするというのが専門業型裁量労働制になります。
ただし、裁量労働制はご本人の裁量にゆだねる制度なので、これは逆にいうと非常に危険な制度ともいえますね。
楽しくお仕事をし過ぎてしまって、全く休んでなかったというご経験がある方もいらっしゃると思います。
ご自身が楽しくお仕事をしているときはそんなに辛くないかもしれませんが、何か成果を上げなければいけないというプレッシャーによってそこまでお仕事をしてしまった場合には、健康被害があるような状況になってしまったりもします。
そのため、いくら裁量労働制だからとはいえ働きすぎないよう会社さんが健康や福祉を確保してくださいということにはなっていますね。

『専門業務型裁量労働制』P3より一部引用―厚生労働省HP

裁量労働制の実態として、タイムカード上60時間など多く残業をしていたとしても、みなし時間働いたことになるので、みなし時間を超えて残業代が発生するということがないという制度になっています。
会社さんも「残業代が発生しないのだから、いいか」という感じで労務管理が甘くなってしまうということで、働き過ぎが懸念されるところです。

専門業務型裁量労働制における2024年4月施行の改正

冒頭でお話ししたように、裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」があり、両方で省令と告示の改正が2024年4月1日にあります。
「専門業務型」と「企画業務型」でそれぞれ対応が異なりますが、今回は「専門業務型」についてご説明します。

『専門業務型裁量労働制』P1より一部引用―厚生労働省HP

専門業務型裁量労働制の対象となるのは、現在19業務に限られています。
2024年4月からの改正で、これに1業務加えられて20業務になります。
まず現在の19業務について見ていきましょう。

『専門業務型裁量労働制』P2より一部引用―厚生労働省HP

上記の12と13の間に、⑬として「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」が下記の専門業務型裁量労働制に関する協定届に加わることになりました。(告示P18では八に加わります。)

「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令」(令和5年厚生労働省令第39号)P10より一部引用―厚生労働省HP

この限定列挙されている業務のなかに、社会保険労務士の業務は入っていません。
本当に不思議ですが、社会保険労務士も調査や考案とかをしているのに、残念ながら専門業務型裁量労働制の業務としては認められていないのですよね。
このように「うちの業界は、絶対に専門業務型裁量労働制が使える」と思ったとしても、上記に書かれていなければ使えない制度であるというものになります。

今回の改正で対象業務としてひとつ増える「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」については、厚生労働省の資料でM&Aアドバイザリー業務として掲載されていますね。

「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A」P12より一部引用―厚生労働省HP

※M&Aについては、こちらのリンク先に用語のご説明を記載しております。

専門業務型裁量労働制については、もうひとつ大きな改正があります。
対象業務に就かせるご本人の同意などに関してのものですが、こちらのほうが影響が大きいので大変だと思います。
この改正により、以下のご対応が必要になってきます。

簡易版「裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」リーフレットより一部引用―厚生労働省HP

改正で変わる労使協定は上記⑥⑦⑧⑩の太字部分になりますので、これらは必ず対応が必要になってきます。
まず改正労使協定⑥「制度の適用に当たって労働者本人の同意を得ること」については、同意がご本人の自由な意思に基づいたものとしてものと認められない場合、みなしは認められないということになっていますね。
要するに、ただ同意を取ればよいというものではなく「今までもそうだったからいいよね」と同意の判子だけをもらって制度を運用しているという状態だと、ご対応としてはちょっと足りないです。
会社さんが「同意した場合はこうです、同意しなかった場合はこういう働き方になります」という内容を明示した上で、ご本人が考え自由な意思に基づいて「わかりました、私は裁量労働制で働きます」と同意をしたというような状況が必要になりますね。

「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A」P7より一部引用―厚生労働省HP

あと改正労使協定⑦「制度の適用に労働者が同意しなかった場合に不利益な取扱いをしないこと」という項目があります。
こちらはご本人が同意をしなかった場合に会社さんとしてどうするのか、ということをしっかりと考えておかなければいけないですよね。

ご本人が制度の適用に同意をしなかった場合には・・・
・社内の評価や制度を不利益にならない程度に変える
・社内の評価や制度を変えずに、残業による時間外割増賃金が増えることを受け入れて、それに備えた労務管理をしっかりとする(残業時間を制限する判断等を含む)

このように会社さんとしての対応を決めておく必要があるということになります。

最後に改正労使協定⑧「制度の適用に関する同意の撤回の手続」については、下記に示されているように同意の撤回をできないようにしてはならないということです。

「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A」P7より一部引用―厚生労働省HP

同意の撤回に関する手続きはできるようにしておかなければならないということ、そして改正労使協定⑦にあったように同意を撤回しても不利益な取り扱いはしてはいけないということになっていますね。

裁量労働制の改正は内容が多いので、来週に続きます。

今週のPodcastの放送は9月になりますね。
10月から社名が変わります。
こちらを配信しているサイトの名前は「BALLAST(バラスト)」といいますが、社名を「バラスト社会保険労務士法人」という名前に変えようと思って先行しておりました。
今度そのお話もしていきたいと思いますので、お楽しみにしていてください。

232.裁量労働制の法改正1-人事・労務の豆知識 Podcast

今週はここまでになります。

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