211.給与の支払い方の話
今週は、給与の支払い方についてお話ししました。
労働基準法第24条の賃金支払い5原則、○○ペイで給与が払えるようになる話、給与ファクタリングの話、ほかの会社経由で給与を払う話・・・
色々なサービスが出てきていますね。
賃金の支払い方法について
この4月1日に給与の支払い方法について改正がありました。
皆さまの賃金は、一定期日になると現金で手渡しや銀行等の口座へ振り込みなどされていますよね。
これらに加えてこの4月1日から「〇〇ペイ」などと呼ばれる、資金移動業者への賃金デジタル払いができるよう法改正がありました。
賃金の支払い方法について、制度の改正や新しい情報がありましたのでお話ししてまいります。
皆さまの賃金はどのように支払われているでしょうか。
賃金の支払い方法については、下記に定められています。
・労働基準法第24条と第59条
・労働基準法施行規則第7条の2~第8条
例えば月給制の方で、月末締め翌月25日払いの場合。
4月1日~4月30日分の賃金の全額を、5月25日にご本人名義の銀行振込で支払われているというケースが多いのではないかと思います。
こちらのケースを賃金支払いの5原則と例外に当てはめてみます。
・翌月25日払い→①毎月一回以上、②一定期日払いの原則
・4月1日~4月30日分の賃金の全額→③全額払いの原則
・ご本人名義→④直接払いの原則
・銀行振込で支払われている→⑤通貨払いの例外
①毎月一回以上
毎月一回以上であれば二回でも三回でもよく、年俸制であっても必ず月に一回以上は賃金を支払わなければなりません。週払いや日払いもできます。
②一定期日払い
月給であれば「25日」「月末」等、週給であれば「金曜日」等、日を特定できるように定めます。
こちらは労働条件通知書などにも記載する項目です。
③全額払い
賃金は全額を払わなければならないため、残業代を賞与としてまとめて支払うなどということはできません。
前月分に計算を間違えて払いすぎてしまった分などを今月分で清算するくらいであれば、法違反にはなりません。
例外として、以下が認められています。
・税金や社会保険料を差し引くこと
・労使協定を結んだうえで、社宅の家賃等を引いてから賃金を支給すること
④直接払い
直接労働者にということで、ご本人に手渡しするか、ご本人名義の金融機関口座へ振り込みます。
学生さんを雇った場合、ごく稀にご本人が銀行口座を持っておらず、親御さんの銀行口座を持ってこられることがありますが、親権者であってもこちらは法違反となります。
その他にも、第三者に賃金を受け取る権利を渡すことはできません。
例外として、「使者」と呼ばれる方に賃金を支払うことは差し支えないとされております。
「使者」ついての認識は、会社さんは直接払いの義務がある以上、ご本人にお渡しするのと同様になる信頼のおける方でないといけないと思います。
⑤通貨払い
法律上の原則は、通貨で手渡しすることです。
賃金が銀行等の金融機関へ振り込まれることは、かなり一般的ですよね。
しかしこれは規則上の例外で、ご本人の同意を得なければならないとされています。
その他に例外として、法令もしくは労働協約に別段で定めたうえでなら、通貨ではなく現物支給ができることになっております。
これらのルールに加えて給与支払い方法の選択肢を拡げるため、この4月1日からできるようになったのが、「賃金のデジタル払い」になります。
次にこちらについて解説いたします。
2023年4月1日改正 「賃金のデジタル払い」の開始について
街中やCMで最近よく見かける「〇〇ペイ」などの業者さんのことを、「資金移動業者」と呼びます。
会社さんは、この「資金移動業者」の口座にも、従業員さんへの賃金を支払うことができるようになりました。
2023年4月1日改正されたこの制度は下記の流れとなるため、実際に賃金のデジタル払いができるようになるまでは数か月かかる見込みです。
賃金のデジタル払いは、支払方法の選択肢のひとつであり労使共に強制ではありません。
会社さんがこちらの制度を導入する場合には、労使協定を結んでから、従業員さんへの個別説明と同意を得る必要があります。
制度導入の際に会社さんは「資金移動業者」の口座へ賃金支払いができなかったときに備えて、代わりとなる口座の情報を同意書の項目に入れてご本人に記載してもらうなど、様々なことを想定した準備が必要になります。
その他にも口座の上限額などいろいろと注意点がございます、詳細はPodcastで解説しておりますのでぜひお聞きください。
参考資料:資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について―厚生労働省HP
こちらに関しましては開始したばかりの制度となりますので、また今後も情報が出てきたらお伝えしてまいります。
給与ファクタリングについて
今回は先ほどご説明した「直接払い」の原則にもかかわってくる、「給与ファクタリング」についてお話しいたします。
まず「給与ファクタリング」とはどういったことをいうのでしょうか?
簡単な例でご説明すると・・・
お金が必要になった月給20万円の従業員さんが給与支払日の前に、この20万円の給与債権を第三者へ渡します。
この第三者が20万円から手数料として20%=4万円を取って、16万円従業員さんへ支払います。
給与支払日となり、第三者が会社さんへ給与債権20万円の支払いを求めたとしても、直接払いの原則により20万円の給与支払いは会社さんから従業員さんへ行われます。
そのため従業員さんは会社さんから支給された20万円を、給与債権を渡した第三者へ支払うことになります。
会社さんから支払われた給与20万円について、結果として従業員さんの手元には16万円しか残らず、第三者は4万円の利益を得るという仕組みです。
※こちらの例は、後で出てくる裁判例とは異なるお話です。
※会社さんは第三者へ給与支払いをしてしまうと法違反となりますので、お気を付けください。
このような仕組みの「給与ファクタリング」に関する最高裁の決定が、2023年2月20日に下されました。
裁判の結論は、「給与ファクタリング」が貸金業法と出資法の「貸付け」にあたると判断され、貸金業として登録を受けていなかったこと(貸金業法違反)、法定を超える利息を得ていたこと(出資法違反)として、「給与ファクタリング」を行った被告人の上告が棄却されたということです。
貸金業法違反、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反被告事件―裁判所HP
こういった事例がありますので、労使ともに「給与ファクタリング」には注意が必要ということになります。
賃金支払いを使用者に代わって行うサービスについて
もうひとつ、「直接払い」や「毎月一回以上、一定期日払い」の原則にかかる、「賃金の支払いを使用者に代わって行うサービス」についてお話しいたします。
最近CMなどで、隙間時間にアルバイトができるマッチングアプリが紹介されていますよね。
そのアプリを経由してA社でアルバイトをした場合、賃金についてA社からではなく、アプリの運営会社であるB社から立て替えて支払われるとのことです。
こちらに関して「A社でアルバイトをしたのに、B社が代わって賃金支払いすることは、労働基準法の直接払いの原則に違反しないのでしょうか?」というお声があったようです。
このお声を聞いてB社は厚生労働省へグレーゾーン解消制度(厚生労働省HP)のもと照会を求め、こういった賃金の立替払いは労働基準法に違反しない旨を、下記リンクの内容にて確認したというお話になります。
確認の求めに対する回答の内容の公表―厚生労働省HP
給与の支払いについては会社さんが従業員さんの生活を守るということで、かなり厳しい決まりになっていた気がします。
最近はご紹介した「賃金デジタル払い」や、新しいサービスについて規制適用の有無を確認して安心して事業展開できるよう、制度構築されてきているのだと思いました。
Podcastでは
・「賃金支払いの原則」や「賃金デジタル払い」についてさらに詳しく解説
・賃金の支払いを第三者が使用者に代わって行うことは、何をもって労働基準法に違反しないとされるのか?その他の事業例で解説
これらのことについてもお話ししております。
今週はここまでになります。
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