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【2026年4月施行】治療と就業の両立支援が事業主の努力義務に|企業の対応ポイントを解説

改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号)により、令和8年4月1日から、職場における治療と就業の両立支援の取組が事業主の努力義務となりました。治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号)を踏まえ、社内の環境整備や必要な両立支援の措置を講ずることが求められます。

1.背景

少子高齢化が進む日本では、治療を受けながら働く労働者が年々増加しています。医療技術の進歩により、かつて「不治の病」だったがんも「長く付き合う病気」に変わり、病気だからといってすぐ離職しなければならない時代ではなくなりました。

しかし、現実には職場の理解・支援体制が不十分なために離職を余儀なくされたり、仕事の都合で十分な治療を受けられない労働者が存在します。取り組みの水準は企業によって大きなばらつきがあるのが実情です。

こうした背景から、2026年4月1日、治療と就業の両立支援が事業主の努力義務として法定化されました(労働施策総合推進法第27条の3)。両立支援は労働者の就業継続を守るだけでなく、企業にとっても人材の確保・定着や生産性向上につながる取り組みです。

本指針が対象とする疾病は、国際疾病分類に掲げられている疾病であって、医師が「継続的な治療が必要」と判断し、就業を続けるうえで会社の配慮が必要な病気やけがが該当します(がん・脳卒中・糖尿病・メンタルヘルス不調など)。


2.会社に求められる環境整備

指針では、事業主はまず以下の5つの環境整備に取り組むことが求められています。

(1)事業主による基本方針の表明等と労働者への周知

衛生委員会等で審議した上で、両立支援に取り組む基本方針と対応ルールを作成し、全従業員に周知します。職場全体で支援の意義を共有し、両立しやすい職場風土を醸成することが目的です。

(2)研修等による意識啓発

全ての労働者と管理職を対象に、両立支援に関する研修等を通じて意識啓発を行います。

(3)相談窓口等の明確化

労働者が安心して相談・申し出を行えるよう、相談窓口とその情報の取り扱い方針をあらかじめ明確にします。

(4)制度・体制の整備

治療のパターンは人によって異なるため、各事業場の実情に応じた制度の導入が望まれます。

<休暇制度>
・時間単位の年次有給休暇:労使協定により、年5日の範囲内で1時間単位での取得が可能
・傷病休暇・病気休暇:入院・通院のために年休とは別に付与する法定外休暇(有給・無給等の条件は各社で設定

<勤務制度>
・時差出勤:負担の大きい通勤時間帯を避けるため始業・終業時刻を変更
・短時間勤務:療養中・療養後の負担軽減を目的に所定労働時間を短縮
・在宅勤務:通勤による身体への負担を軽減
・試し出勤:長期休業後の職場復帰を支援するため、勤務時間・日数を段階的に増やしながら復帰

また、申し出があった場合の対応手順・担当者の役割分担をあらかじめ整理しておくこと、主治医に就業状況を伝える様式や意見を求める様式を用意しておくことも重要です。制度は作るだけでなく、管理職への研修や定期的な周知により実効性を確保しましょう。

(5)事業場内外の連携

産業保健スタッフや主治医との連携に加え、必要に応じて主治医と連携している医療ソーシャルワーカー、看護師等や、都道府県労働局、都道府県の産業保健総合支援センター、保健所等の保健師、社会保険労務士等の支援を受けることも考えられます。


3.実際に申し出があったときの流れ

両立支援は労働者本人からの申し出を起点に進めます。会社側が一方的に判断・決定するのではなく、本人の希望を聴きながら進めることが重要です。

STEP 1 労働者本人が申し出・主治医からの情報を会社に提出

主治医から「現在の症状・治療スケジュール」「通勤や業務への影響」「望ましい就業上の措置(時間外制限・出張可否等)」「通院時間の確保など配慮事項」などの情報を収集して提出。会社は様式の準備や手続き説明等でサポートします。

STEP 2 会社が産業医等の意見を聴取する

事業主は、主治医から提供された情報を産業医等に提供し、就業継続の可否・就業上の措置・治療に対する配慮に関する産業医等の意見(主治医の意見の確認を含む)を聴取することが重要です。産業医等がいない場合は、主治医から提供された情報を参考とします。

STEP 3 本人と十分に話し合い、就業継続の可否と措置を判断する

就業継続の希望や配慮の要望を聴取し、十分な話し合いを通じて本人の了解が得られるよう努めます。病気を理由に安易に就業禁止・退職とせず、主治医・産業医等の意見を勘案した上で、可能な限り配置転換・時短等の措置を講じて就業の機会を失わせないよう留意することが求められます。

STEP 4 両立支援プランを作成・実施する

措置の内容・期間・見直し時期などを明記したプランを作成し、実施します。

STEP 5 治療の経過に応じて定期的に見直す

定期的に本人・産業医等・人事担当者で面談を行い、状況に応じてプランを更新します。

⚠ 指針には「業務の繁忙を理由に必要な配慮を行わないことはあってはならない」と明記されています。時間的配慮だけでなく、副作用・後遺症による業務遂行能力の低下にも目を向け、個別事例に応じた柔軟な対応が不可欠です。

⚠ 治療と就業の両立支援は重要ですが、労働安全衛生法第68条および労働安全衛生規則第61条では、「心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのある場合」には、事業者は「就業を禁止しなければならない」とされています。両立支援を進める際も、このようなケースでは産業医など専門医の意見を踏まえ、就業の可否を慎重に判断する必要があります。


4.実務対応のポイント

本改正は努力義務ですが、国が指針を示したうえで法律上明確に位置づけた以上、対応を怠ることは企業リスクにつながります。努力義務のため直接の罰則はありませんが、対応しない場合は行政指導の対象となる可能性があります。まずは取り組みやすいところから着手しましょう。

1.就業規則・社内規程の確認・整備(傷病休暇・短時間勤務制度の有無)
2.相談窓口の設置と全従業員への周知
3.管理職向け研修の実施(相談対応・支援制度の理解)
4.基本方針の策定・衛生委員会での審議と全社周知

制度整備や対応方針でお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。

出典:厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年2月10日告示)


杉並区荻窪・千葉県流山市を拠点に企業の成長を支える労務パートナーとして、貴社をサポート致します

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合田 真梨菜

執筆

合田 真梨菜

高崎経済大学地域政策研究科前期博士課程を修了。企業と労働者の双方の視点から働くことに関わる仕事を志す。日本語教師として外国人労働者・留学生の支援を行う中で、必要なのは言葉だけでないと痛感し、2021年にバラスト社会保険労務士法人(旧:恵社労士事務所)に入社。現在は、企業のパートナーとして、日常的な労務相談に加え、法改正等の情報発信を通じて、誠実かつ実直な姿勢でサポートしている。

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