今年も早いものでもう2月になりました。荻窪にございますバラスト社会保険労務士法人の髙山でございます。
さて、前回は人手不足とその対策についてと題したコラムの第1回を投稿させていただきました。今回はその第2回となります。
第1回では人手不足と大きく関わりのある生産年齢人口及び高齢化率の現状と推移、また、人手不足対策として自分なりに考えたものを幾つか述べさせていただきました。
なお、取り上げましたもののほかにもChatGPTなどの生成AIを活用した業務効率の改善等も当然有効な手立てとして考えられますが、あくまでも「人手」に着目して考えていきたいと思います。
前回、〈多様な人財の活用〉の一例として障害のある方を取り上げさせていただきましたが、その理由は人手不足対策のためだけではありません。
日本には「障害者雇用促進法」という法律があり、この法律の中で一定の規模を有する事業者に対象障害者を一定割合で雇用することが義務づけられています。
つまり、障害のある方を雇用することは人手不足対策という面でだけでなく、法律で定められた義務を果たすことにもつながるのです。
この法律では「国及び地方公共団体」と「民間企業」について規定されていますが、当コラムでは「民間企業」について述べていきます。
障害者雇用促進法について
正式名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」といい、障害のある方の雇用に関する様々なことを定めています。
第1条にその目的が規定されていますが、箇条書きにすると以下のとおりです。
- 障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置
- 雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置
- 職業リハビリテーションの措置その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置
- (以上)を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ることを目的とする
様々な措置を講ずることで障害のある方の職業の安定を図ることを目的とされていますが、雇用義務に関する措置については最初に述べられています。
障害者雇用義務人数の計算について
事業主に障害者の雇用義務があることは先ほど述べたところでありますが、次にその要件について述べてみたいと思います。
まず、大きく影響するものが「障害者雇用率」と呼ばれるもので、2025年1月現在では「2.5%」となっています。
この障害者雇用率を労働者数に掛けた値(1未満は切り捨て)が雇用すべき障害者数となります。大まかな式にすると次のようになります。
雇用障害者数=(労働者数―労働者数×除外率)×障害者雇用率
※「除外率」が設けられている業種は、
雇用障害者数=(労働者数―労働者数×除外率)×障害者雇用率
つまり、常時雇用する労働者が「40人以上」の企業は、「1人」以上の対象障害者を雇用する義務が発生します。
(計算例) 1 = a × 2.5%
a = 40
さらに、後述する「除外率」の試算も示しておきます。
仮に40人規模の事業所で除外率の最大である「80%」が適用される場合は「0.2人」となります。計算式は以下のとおりです。
(計算例) a = ( 40 – 40 × 0.8 ) × 2.5%
a = 0.2
除外率が適用される業種では、障害者雇用率の適用対象となる労働者数が減少するため、計算結果に大きな差が生じます。先述したとおり、雇用すべき人数を計算した結果に「1未満」の数が出た場合は切り捨てることになりますので、「0.2人」であれば雇用すべき人数は「0人」となります。
なお、現在の障害者雇用率「2.5%」は、2024年4月に「2.3% → 2.5%」に引き上げられ、2026年7月に「2.5% → 2.7%」へと引き上げられる予定です。
除外率について
雇用すべき障害者数を求める式については先ほど述べたところですが、一定の業種においては「除外率」というものが設けられています。この除外率というものについてもう少し詳しく述べてみたいと思います。
まず、現行の除外率を業種ごとにまとめてみました。
除外率設定業種 | ※除外率 |
非鉄金属製造業(非鉄金属第一次精製業を除く) 倉庫業 船舶製造・修理業、船用機関製造業 航空運輸業 国内電気通信業(電気通信回線設備を設置して行うものに限る) | 5% |
採石業、砂・砂利・玉石採取業 水運業 窯行原料用鉱物鉱業(耐火物・陶磁器・ガラス・セメント原料用に限る) その他の鉱業 | 10% |
非鉄金属第一次精錬・精製業 貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く) | 15% |
建設業 鉄鋼業 道路貨物運送業 郵便業(信書便事業を含む) | 20% |
港湾運送業 | 25% |
鉄道業 医療業 高等教育機関 | 30% |
林業(狩猟業を除く) | 35% |
金属鉱業 児童福祉事業 | 40% |
特別支援学校(もっぱら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く) | 45% |
石炭・亜炭鉱業 | 50% |
道路旅客運送業 小学校 | 55% |
幼稚園 幼保連携型認定こども園 | 60% |
船員等による船舶運航等の事業 | 80% |
様々な業種に設定されていますが、イメージとしては体を動かす業種、仕事をする場所が事務所等よりも危険を伴う業種といったところでしょうか。
最も大きな除外率が設定されている船舶事業においては80%が設定されています。
これを計算式に当てはめると次のようになります。
(計算例) 1 = ( a – a × 80% ) × 2.5%
a = 200
式は分かったのですが計算が不安だったためChatGPTにお願いしましたところ、同じく「a = 200」が返ってきました。
つまり、船舶の業種については「200人以上」の労働者を雇用する場合に「1人」の対象障害者を雇用する義務が発生することになります。
なお、この除外率は2025年4月より10ポイント引き下げられ、将来的に廃止される予定です。ただし、完全な廃止時期については現時点で未定です。
次回について
ここまで雇用すべき障害者数の求め方について大まかに述べてきましたが、いかがでしたでしょうか。ご自身の会社だったらと考えてみるとイメージしやすいかと思います。
人数はイメージできたけれども、障害者だったらどのような人でもいいのか、労働者数は企業全体で考えていいのか等気になっていらっしゃるかと思います。
そちらにつきましてはまた次回以降述べてまいりたいと思いますので、よろしければお付き合いいただけますと幸いです。
障害者の雇用義務については、簡単に言えば労働者数に障害者雇用率を掛けるだけというシンプルなものですが、その正確な計算をするのはなかなか難しいものです。実際に計算する際には専門家のアドバイスを受けることを強くお勧めいたします。弊社がその一助になれればうれしく思いますので、よろしければお気軽にお問い合わせくださいませ。
今回はここまでとさせていただきます。お付き合いいただき誠にありがとうございました。