通勤手当の「報酬等」としての取扱い

通勤手当は、ほとんどの企業で支給されていますが、その取扱いは「賃金」や「報酬等」として制度ごとに異なります。本コラムでは、社会保険・労働保険上の取扱いや、在宅勤務との関係、実務上の留意点を整理します。
1.通勤手当とは?
通勤手当とは、従業員が自宅から職場までの通勤にかかる費用を、会社が全額または一部負担するために支給される手当のことです。
電車などの公共交通機関やマイカーなど、通勤方法ごとに異なる金額が、企業のルールに基づいて支給されます。支給方法は、全額・一部負担する、電車やマイカーなど通勤方法ごと、また現金や通勤定期券などの現物支給など、会社によってさまざまのようです。 なお、法令上、通勤手当の支給は特段義務付けられておらず、支給していなくても違法ではありません。会社は「就業規則」などででルールを定めて、法定外の福利厚生の一環として支給することになります。
2.通勤手当は「割増賃金」の基礎には含めない
通勤手当は、就業規則などで支給ルールを定めるため、労働基準法の賃金に当たるとされています。そのため、雇用契約書(労働条件通知書)などで支給条件や基準を明記しておく必要があります。
一方、「割増賃金」を計算する基礎となる金額には、通勤手当は含まれないとされています。
◆参考資料◆ >> 「割増賃金の基礎となる賃金とは?」(厚労省チラシ)
通勤手当は、「労働の対価」との関連性が低く、割増賃金計算の基礎から除外できるとされています。(※ただし「一律支給」などの場合、除外できない旨も上記チラシに記載があります)
同様に、「最低賃金」の対象となる賃金にも「通勤手当」は含まれません。
◆参考資料◆ >> 「最低賃金の対象となる賃金」(厚労省サイト)
3.社会保険料の「報酬」、雇用保険料の「賃金」
通勤手当は、一定の範囲内であれば所得税法上「非課税」とできます。(※ここでは、通勤手段(電車、マイカーなど)や距離による課税・非課税額扱いなどの説明は割愛します)
ただし、「社会保険料」「雇用保険料」の算出においては、所得税の非課税限度額に関係なく、通勤手当は「報酬等」の対象に含まれます。通勤手当は、原則として健康保険・厚生年金の保険料決定の基礎となる「報酬月額」や、労災・雇用保険料を支払う際の「賃金総額」に含めて計算する必要があります。
◆参考資料◆
1)>>「報酬となるもの・ならないもの」(年金機構 算定基礎ガイド、P3)
2)>> 雇用保険料の対象となる賃金(厚労省資料)
4.在宅勤務と通勤手当の関係
9月下旬のコラムでは「在宅勤務手当」は「報酬等に含まれるのか」をご紹介しましたが、在宅勤務の普及に伴い、出勤日数が減るケースも増えてきています。この場合の通勤手当の取扱いは、基本的には従業員の雇用契約上の労務提供場所によって異なるとガイドされています。
- 契約上の労務提供場所が「自宅」の場合
→ 通勤は「一時的に出社」扱いとなり、実費弁償扱い=「報酬とならない」
- 契約上の労務提供場所が「事業所」の場合
→ 従来どおり「報酬となる」
※ 下記資料にて、ガイドの詳細が説明されています。 >> 在宅勤務・テレワークにおける交通費の取扱いについて(事務取扱い事例集PDFのP15)
なお、「契約上の労務提供場所」とは、雇用契約書(労働条件通知書)の「就業場所」の内容を指します。在宅勤務を導入する場合は「本社事業所及び従業員自宅」などと記載します。実務的な運用では、会社や部門ごとに月間勤務予定表などで、各日の就業場所を「事業所」または「自宅」として事前に特定することでしょう。
当日の就業場所を「自宅」として勤務を開始し、その後業務都合で「一時的(臨時的)に出社する」場合は、前述のとおり実費弁償=「報酬とならない」ものと考えられます。一方で、予定していた在宅勤務日を「予め事業所に変更して出社する」場合は、その日の就業場所は「事業所」となり、従来どおり「報酬」となり得ます。変更のタイミングにも留意が必要ですね。
5.まとめ
コロナ禍を契機に、在宅勤務をはじめとするテレワークが急速に普及し、リモートワークなど働き方の多様化も進んできています。通勤手当の見直し・廃止を提唱するレポートを目にするようにもなりました。今後は、従業員の働き方の変化に合わせて、通勤手当制度の柔軟な見直しが一層求められるかも知れません。
なお、通勤手当の新設や改定、廃止にあたっては、あらかじめ労使間で十分に協議することが重要です。特に、改定・廃止が従業員の不利益変更となる場合、労使間トラブルを防ぐため「変更が合理的な理由に基づく」ことが求められます。労働者代表等と協議し意見聴取のうえで、適切に就業規則等の変更手続きを進めましょう。
東京都杉並区荻窪をオフィスとするバラスト社会保険労務士法人は、10名以上のスタッフが在籍するチームワークの良い事務所です。在宅勤務導入の留意点などを踏まえ、御社の状況等に合わせた手当設計、それらに伴う就業規則改定、社会保険手続き(随時改定の要否)までトータルでサポートいたします。貴社の課題など、ぜひ1度お気軽にご相談ください。(鵜頭)
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執筆
鵜頭 克明
明治大学法学部卒。事務機販売会社に30年余り勤務。ソフトウェア企画部門で製品戦略やサポート体制構築に従事。その後、管理部門で取引先との開発委託契約や派遣先管理に関わる中、労働者を取り巻く環境に関心を深め、2023年社労士試験に合格。2024年8月にバラスト社会保険労務士法人へ入社。手続き・給与計算、助成金申請や就業規則改正などを担当し始めている。落ち着いた対応とロジカルな思考で、誠実なサポートに努めている。



