228.労働基準法2
労働基準法を読んでみよう第二回です。
今回は第二章!途中まで!
労働条件通知書の条文などが出てきます。
労働基準法シリーズの第一回はこちらになります→ Podcast / ブログ
労働基準法を第二章の途中まで読んでみよう
今週はしばらくぶりの労働基準法の解説をしてまいります。
前回は第一章お話ししましたので、今回は第二章の労働契約というところからお話しいたします。
こちらは非常に重要で、実務でもよく出てくるところの根拠になっていますので、面白いかと思います。
労働基準法 第二章 労働契約
第十三条 この法律違反の契約
(この法律違反の契約)
第十三条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。
条文引用:e-Govリンク
こちらについては「契約というのは民法において自由であり、双方の決定で決まるのだから、よいではないか」と思っておられる方が稀にいらっしゃいます。
民法の契約というものは、第五百二十一条に契約自由の原則として、お互いに了承すればよいということになっています。
そのため労働契約というのも、労働者と使用者が合意した内容で締結すればよいのだと思われるかもしれませんが、そうとは限りません。
法律の決まりとして、民法の特別法にあたるものがこの労働基準法になります。
民法は一般法、労働基準法は特別法とされており、一般法よりも特別法が優先されます。
すなわち両者でいえば、労働基準法が優先されるということです。
そしてこの第十三条には、この法律で定める基準に達しない労働条件は無効とする旨が書いてありますね。
そのためいくら契約自由とはいえ、例えば労働者の方から「有給休暇はいりませんので、少しお給料を高くしてください」という交渉があり、使用者の方が「有給休暇はいらないと言うならば、お給料を少し高くしてあげますよ」ということで、少し高めのお給料で有給休暇なしの労働契約を結んだとしても、その有給休暇なしの部分は無効となります。
なぜならば、労働基準法の第三十九条に年次有給休暇の付与をしなければならないことが定められていますので、この基準に達しない部分が無効になるということです。
こちらの契約の内容にある、少し高めのお給料については労働基準法での問題はありませんし、最低賃金法の最低賃金以上であれば有効となります。
そうなると、この例の契約内容は有給休暇の部分のみが無効とされ、少し高めのお給料は有効となります。
使用者=不利な契約、労働者=有利な契約が結ばれることになりますよね。
このようなわかりやすい事例ではなくとも、所定労働時間について法定の8時間では足りないから12時間働く契約をしているなど、労働基準法の手続きや限度を無視した契約の部分は無効となるということで、この第十三条は重要な内容です。
第十四条 契約期間等
(契約期間等)
第十四条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。
一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一項第一号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
② 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。③ 行政官庁は、前項の基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
条文引用:e-Govリンク
こちらの契約期間等については忘れがちですよね。
期間の定めのある労働契約をする時には、だいたい三か月・半年・一年などが多いので、三年ということはあまりないですが、三年までは契約することができます。
ただし、期間の定めのある労働契約について三年にしてしまうと、三年は絶対に雇わなければいけないので、一年更新などにしている場合が多いのではないかと思います。
特別な場合には五年まで期間の定めのある労働契約ができて、それは下記の2つの条件のいずれかに該当する労働者ならば認められています。
1つ目の条件は、厚生労働省が基準を定めた高度な専門的知識等を有する労働者で、社労士もこれに該当します。
2つ目の条件は、満60歳以上の労働者です。
第十五条 労働条件の明示
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
条文引用:e-Govリンク
こちらは実務でもよく出てくるところです。
「この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」とありますが、この厚生労働省令で定める事項とはどちらのことを指しているのでしょうか?
こちらは下記の労働基準法施行規則第五条に定められています。
労働基準法施行規則
第五条 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第一号の二に掲げる事項については期間の定めのある労働契約であつて当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
一 労働契約の期間に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
七 安全及び衛生に関する事項
八 職業訓練に関する事項
九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
十 表彰及び制裁に関する事項
十一 休職に関する事項
② 使用者は、法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。
③ 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、第一項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
④ 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)
条文引用:e-Govリンク
労働条件については上記の労働基準法施行規則にある内容を、書面等で明示してくださいということになります。
明示する内容は、下記2つの事項となります。
どの事業場でも必ず明示しなければならないもの=絶対的明示事項
事業場で定めがあるならば必ず明示しなければならないもの=相対的明示事項
そして労働基準法第十五条「この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」というところの、厚生労働省令で定める方法による明示方法については、労働基準法施行規則第五条④に定められています。
こちらの明示方法について以前は書面のみでしたが、労働者が希望した場合はFAXや電子メール、現在だとLINEなどでもよいということになりました。
ただし、こちらは労働者の方が記録を出力して書面を作成することができるものに限る、ということですのでファイルを添付して書面にできることが条件となります。
そして必ず明示しなければならない労働条件(絶対的明示事項)には、どのようなものがあるのでしょうか。
簡単にご説明すると、ポイントは3つあります。
絶対的明示事項のポイント
ポイント① 労働時間等がどのくらいなのか
ポイント② 貰えるお給料はどのくらいなのか
ポイント③ 辞めるときはどうするのか
ポイント①を細かく見ていくと
一 労働契約の期間に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
これらは正社員等の期間の定めがない場合は「なし」とします。
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
これらは定時が何時~何時なのか、残業は有るのか、休憩はいつどのくらい取れるのか、お休みの日はいつなのか、という労働者の方がどのくらい働くのか明示されています。
次にポイント②については
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
こちらは昇給に関する事項のみ書面でなくてもよいとされています。
なお退職金については、その制度があるならば記載しなければならない事項(相対的明示事項)となりますので、賃金としてこの欄に記載します。
ポイント①の二とポイント②の三のところを見れば、何時間働いたらどのくらいのお給料が貰えて、残業したらどのぐらいプラスされて、交通費がどのくらいなのかというのもわかるような項目になっています。
そのため、会社さんが認識されていたところと労働条件通知書に相違がある場合、労使紛争などが起こった時には「労働条件通知書にこのように書いてある」と従業員さんから言われてしまうと、会社さんはそれを認めるしかないということになります。
労働条件通知書は契約書になりますので、気を使って作らないといけないですね。
最後にポイント③は、四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)ということですね。
こちらは退職=労働契約を解約するためにはどうしたらよいのか、ということを記載します。
まず定年がある場合には、定年の年齢に到達したら、自動的に労働契約は解約されるということですよね。
それから労働者ご自身がお仕事を辞めたい場合には、退職の届出をどのくらいの前に提出してくださいということなども書かれています。
ここでは使用者側から解雇する場合にその事由や手続きについて、こういうことがあったら解雇します、という内容も必要になってきます。
※労働条件通知書について、沖縄労働局のホームページにわかりやすい記載例が掲載されておりますので、こちらのリンクにてご参照ください。
あと私が個人的に労働条件通知書にも書いた方がよいのではないかと思っているところは、十一 休職に関する事項ですね。
休職に関する事項について、法律上は相対的明示事項になります。
しかし最近は休職が多くあります。
休職制度は会社さんの福利厚生として定められているものですよね。
労働契約というものは、労働者が労働を提供して、それに対して使用者が賃金を労働者へ支給する契約になります。
そのため、労働者の方が病気や怪我をして働けなくなるということは労働を提供できない状況であり、そうなると使用者の方は賃金を支払わなくてよいということ=労働を提供するという契約の存続が難しくなるというのは当然のことですよね。
極端な話、労働を提供できない状況=解雇ができる事由となり得るわけです。
このような労働者が労働を提供できない状況の中で、使用者が労働契約をすぐには解約せずに、ある一定の期間ならば解約を待ちます、という期間が休職にあたります。
従業員さんご本人は何か病気等があったときに休職規定を使って「少しお休みします」と会社さんへ言いやすくなるということにプラスして、日本の労働法では会社さんからの解雇がしづらいという事情があるため、この休職に関する事項を設けていないといつまで経っても退職していただくことができなくなってしまう状況になります。
会社さんが定める休職の制度は、何かしらの事情で休職となった従業員さんについて、休職期間満了で復帰できないときには自然退職をしていただくということになっている場合がほとんどだと思います。
そしてそのように定めていないと、お休みされている従業員さんも復帰へのいろいろな思いから一区切りができない。
会社さんとしても従業員さんの復帰をここまで待ちました、その上で従業員さんが復帰できないのであれば休職規定に則って自然退職で終わりにするというのをあらかじめ示すことができますので、こちらの休職に関する事項を労働条件通知書に載せた方がよいのではないかというのが私の意見です。
休職の制度がない会社さんはすぐに作ってほしいですし、労働条件通知書はかなり重要な書類でしっかりと作成しないと大変なことになりますので、一度社労士に見てもらった方がよいのではないかと思います。
第十六条 賠償予定の禁止 / 第十七条 前借金相殺の禁止 / 第十八条 強制貯金
(賠償予定の禁止)
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
条文引用:e-Govリンク
(前借金相殺の禁止)
第十七条 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
条文引用:e-Govリンク
(強制貯金)
第十八条 使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
② 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出なければならない。
③ 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合においては、貯蓄金の管理に関する規程を定め、これを労働者に周知させるため作業場に備え付ける等の措置をとらなければならない。
④ 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入であるときは、利子をつけなければならない。この場合において、その利子が、金融機関の受け入れる預金の利率を考慮して厚生労働省令で定める利率による利子を下るときは、その厚生労働省令で定める利率による利子をつけたものとみなす。
⑤ 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、労働者がその返還を請求したときは、遅滞なく、これを返還しなければならない。
⑥ 使用者が前項の規定に違反した場合において、当該貯蓄金の管理を継続することが労働者の利益を著しく害すると認められるときは、行政官庁は、使用者に対して、その必要な限度の範囲内で、当該貯蓄金の管理を中止すべきことを命ずることができる。
⑦ 前項の規定により貯蓄金の管理を中止すべきことを命ぜられた使用者は、遅滞なく、その管理に係る貯蓄金を労働者に返還しなければならない。
条文引用:e-Govリンク
こちらは面白いところが3つ並んでいますので、連続してお話しします。
要するにこれら第十六条~第十八条の共通点は、労働者に対して不当な拘束をしてはいけないということになります。
労働者の方が何かをしてしまった場合の損害賠償額を予定して賠償をさせる(第十六条)とか、使用者に借金をしているから賃金で返済するために労働者が辞められない(第十七条)など、不当な拘束を禁止する内容となっています。
第十八条の強制貯金については、制裁などではなく福利厚生としての意味合いで財形貯蓄などの貯蓄制度を設けている会社さんもあり、こういったものはこの第十八条の禁止事項にはあたりません。(参考リンク:財形貯蓄制度―厚生労働省HP)
このような財形貯蓄などではなく、使用者が労働者の給与からよくわからない金額を天引きして、貯蓄するようなことがダメだということですね。
賃金はしっかりと労働者へ支払いましょう、ということになります。
今週のPodcastでは
労働基準法第二章の半分程お話ししました。
第十九条の解雇制限からは、また今度お話しいたします。
労働基準法シリーズの第一回はこちらになります→ Podcast / ブログ
今週はここまでになります。
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